衆院選差し止めで提訴=弁護士グループ―東京地裁(時事通信)
衆院選差し止めで提訴=弁護士グループ―東京地裁
国政選挙で「1票の格差」訴訟を起こしてきた山口邦明弁護士らのグループが18日、
国に選挙の差し止めなどを求めて東京地裁に提訴した。
併せて仮差し止めの申し立ても行った。
提訴後の記者会見で山口弁護士は、
「裁判所には、憲法が(投票価値の平等について)何を求めているかをはっきり示してほしい」と訴えた。
山口弁護士らは選挙後に無効訴訟も起こす方針。
別の弁護士グループも投開票の翌日に全選挙区について無効訴訟を起こすと表明している。
先週から、安倍首相が衆議院解散を決断し、
年内に総選挙が行われる見通しなどと報じられている。
民意を問うべき重大な政治課題があるわけでもないのに、
自公両党で圧倒的多数を占める衆議院を、任期半ばで解散するというのは、
常識的には考えられない。
それだけでなく、今回の解散は
憲法上の内閣の解散権の根拠
69条がその例外としての内閣不信任案可決に対抗する衆議院解散を認めているのだから、
解散は69条の場合に限定されるということになるはずだ。
野党が内閣不信任案を提出して形式的にそれを衆議院で可決し、
「69条所定の事由による解散」とする方法が採られた。
日本では、その後、野党側も早期解散を求める政治状況の下で、
解散事由を限定する考え方は実務上とられなくなり、
1952年の第2回目の衆議院解散は、
69条によらず天皇の国事行為を定めた7条によって行われた。
議員の歳費を請求する訴訟を起こしたのに対して、
高裁が69条によらない7条による衆議院解散を合憲と認め、
高度に政治性のある国家行為については法律上の判断が可能であっても
裁判所の審査権の外にあり、その判断は政治部門や国民の判断に委ねられるとして、
違憲審査をせずに上告を棄却したこともあり、
その後、69条によらない7条による衆議院解散が慣例化した。
先進諸外国での議会解散権
しかし、内閣には議会の解散権が無条件に認められるというのでは、決してない。
先進諸外国でも、内閣に無制約の解散権を認めている国はほとんどない。
日本と同じ議院内閣制のドイツでも、内閣による解散は、
議会で不信任案が可決された場合に限られており、
法制度上は内閣に自由な解散権が認められているイギリスにおいても、
2011年に「議会任期固定法」が成立し、首相による解散権の行使が封じられることになった。
理由なき解散は「内閣の解散権の逸脱」
もともと、議院内閣制の下では、内閣は議会の信任によって存立しているのであるから、
自らの信任の根拠である議会を、内閣不信任の意思を表明していないのに解散させるのは、
自らの存在基盤を失わせる行為に等しい。
予算案や外交・防衛上重要な法案が否決された場合のように、
実質的に議院による内閣不信任と同様の事態が生じた場合であればともかく、
それ以外の場合にも無制限に解散を認めることは、
内閣と議会との対立の解消の方法としての議会解散権の目的を逸脱したものである。
例外としての衆議院解散を、条文上は内閣不信任案が可決された69条の場合に限定している。
このような規定からすると、内閣が、自らを信任している議会を解散することによって国民に信任を求めるということは、憲法は原則として認めていないと解するべきであろう。
69条の場合ではなくても、
重大な政治的課題が新たに生じた場合や、
政府・与党が基本政策を根本的に変更しようとする場合など、
民意を問う特別の必要がある場合があり得るということであり、
内閣による無制限の解散が認められると解されてきたわけではない。
現在の安倍内閣は、一昨年の年末の総選挙で大勝し、国民から支持を受け、
衆議院の圧倒的な多数で信任されて成立した内閣だ。
安倍政権が衆議院の信任を失うという事態や、
民意を問うべき重大な政治課題が生じることがない限り、
衆議院議員に任期を務めさせることが国民の意思のはずだ
今回、安倍首相が決断したと言われている現時点の衆議院解散が、
民意を問うべき重大な政治上の争点もなく、
主として安定した政権を今後4年間維持するためのタイミングの判断として行われるのだとすれば、
それに加え、現時点で衆議院解散を強行するとすれば、
もう一つ憲法上大きな問題が生じることになる。
国会がこれを合理的期間内に是正しないのは憲法に違反するとの判断が示されている
「衆議院定数不均衡問題」である。
この点について、「0増5減」で極端な不均衡を是正しただけで、
何ら抜本的な改正を行うことなく、
任期が2年以上残っているこの時期に敢えて衆議院を解散し、総選挙を行うのは、
憲法の要請に反するものと言えよう。
もし、安倍首相が、現時点で衆議院解散を強行するとすれば、
内閣に与えられた解散権を逸脱し、
国の重大な憲法違反に対しても、
統治行為論によって判断を回避してきたこともあり、
「首相の憲法違反」に対して司法的救済が行われることは期待しがたい。
そのため、もし解散総選挙が行われた場合、国民に残された手段は、
「首相の重大な憲法違反」を十分に認識した上で、投票を行うことである。
「アベノミクスへの信任」をめぐる誤謬
安倍首相は、そこで行われる総選挙を、
国民に「アベノミクスへの信任」を問う選挙と位置づけることになるであろう。
「民意を問うべき重大な政策課題」に当たらないことは言うまでもないが、
もう一つの大きな問題は、
「アベノミクス」を、現時点で多くのマスコミの論調通りに評価してよいのかという疑問だ。
第一に、日本銀行の追加金融緩和決定との関係である。
この「急激な円安・株高」は、安倍政権発足以降強調されてきた象徴的な経済事象である。
その責任は、政府から独立した日本銀行が負うべきものであり、
それ自体は、安倍政権による政策の評価の対象とすべきものではない。
第二に、「急激な円安・株高」が、現時点において国民生活にどのような影響を与えているのか、それが国民に正しく認識・理解されているかどうかという問題だ。
円安は、輸入物価の上昇を通じて国民生活を圧迫するというデメリットの一方で、
企業業績の向上、株高によって国民に経済的メリットをもたらす。
問題は、その「企業業績の向上、株高」の中身だ。
まず、企業業績の方だが、安倍政権発足後の円安による企業業績の向上の大部分は、
海外事業の収益が円安によって円ベースで膨らんでいることによるものだ。
ドル円が30%下がれば、
それによって、ドルで得ている海外事業での収益が円ベース30%増加する。
日本企業は、本社経費や国内での人件費を円ベースで支払うので、
海外収益が増えた分、トータルの収益が増加するのは当然のことである。
その収益の増加が円ベースの賃金の上昇につながるのであれば、
国民は円安による企業業績向上のメリットを享受できるわけだが、
現在までのところ、それが十分に実現しているとは言い難い。
もう一つの株高の方も、その中身は、「日経平均7年ぶり高値更新」等の見出しの新聞報道から受ける国民のイメージとは異なったものだ。
10月31日に黒田日銀総裁が追加緩和を発表して以降、
日経平均株価は先週末までに1800円余り上昇した。
その上昇寄与分は、一部の超値嵩株に極端に偏っている。
日経225の上昇分の約4分の1が、この2銘柄によるものなのだ。
当然のことながら、このような超値嵩株は、小口投資家には手が届かない。
売買単位が100株なので、ファーストリテイリングは440万円、ファナックは200万円余の資金が必要となる。
日経平均上昇がそのように偏った銘柄によるものであるだけに、
資金の逃げ足も速く、ちょっとしたきっかけで大きく下落するリスクもある。
庶民にはなかなか手を出しづらい「株高」だといえよう。
多くの国民は、企業業績の向上も、給与の増加にはつながっておらず、
株高も庶民の持ち株への影響は限られているということで、
円安のメリットを実感できないでいる。
それなのに、マスコミで連日「円安・株高」が報じられると、そのメリットを享受できていないのは自分だけであるような錯覚に陥るのではないだろうか。
このような状況のもとで、アベノミクスが正しく評価されるであろうか。
むしろ、日銀の金融緩和と政府の経済政策がうまく調和して、
日本経済の回復軌道が鮮明になり、
「円安・株高」が本当の意味で国民の経済的利益につながったといえるときに、
本当の評価が可能になるのではないだろうか。
現時点での解散・総選挙によって
「アベノミクスへの信任」を求めることには、大きな問題があるように思える。
弁護士・コンプライアンスの第一人者