電気を捨てる「ムダ発電」はこれで根絶できる(東洋経済オンライン)


電気を捨てる「ムダ発電」はこれで根絶できる(東洋経済オンライン)

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20181116-00248620-toyo-bus_all


再生可能エネルギー導入が進む欧州諸国では、再エネ発電の出力不安定対策として、電気をガスに変えて貯蔵するP2G(Power to Gas)に対する関心が高い。中でもドイツは、P2Gの技術開発で先行し、数多くの実証プロジェクトが実施されている(九州「太陽光で発電しすぎ問題」とは何なのか)。
後れをとっていたわが国だが、ここに来て続々とP2Gの実証事業が始まっている。その最新事情について、『日本の国家戦略「水素エネルギー」で飛躍するビジネス』の著者・西脇文男氏がリポートする。

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■日本でもP2Gの取り組みが始まった

 ドイツがP2G実用化に向けた実証事業を着々と進める中、P2G技術開発で後れをとった日本だが、ここへきて急ピッチでP2Gシステム開発の取り組みが始まっている。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「水素社会構築技術開発事業」の委託を受け、現在5つの実証プロジェクトが進行中だ。

その1つが、山梨県東レ東京電力HD、東光高岳の4者が進める米倉山P2Gプロジェクトだ。現在は、評価用の水電解装置(固体高分子(PEM)型)に模擬変動電流を流して評価を行っている段階だが、最終的には、米倉山の1万kWメガソーラーが発電する電力の不安定部分を使って、年間45万Nm3
の水素を製造、貯蔵および利用するP2Gシステムの確立を目指す。

 実証用の水電解装置は、PEM型としては最大級の1500kWで、その中核材料となる大面積電解質膜は東レが開発した(水電解装置は日立造船が製造)。また、貯蔵・輸送は、水素吸蔵合金に貯蔵、高圧ガスをローダーで輸送するのが有力だが、パイプライン輸送など他の方法も含め、経済性や法的適合性なども踏まえて実証計画を決める方針だ。

 山梨県では、この実証に先立って、太陽光発電の出力安定化を目指した蓄電システムの研究開発に取り組んできた。
 数秒~数十秒周期で変動する短周期変動は、電気2重層キャパシタ(注1)や超電導フライホイール(注2)で充放電を繰り返す。少し長めの中周期変動はリチウムイオン電池ニッケル水素電池に蓄電(および放電)し、さらに長い長周期変動はP2Gで水素に変えて電力貯蔵する。この組み合わせによって、出力変動の激しい太陽光発電でも系統接続しやすい安定電源化することができる。同時に、水素を製造する水電解装置も短周期の変動を受けないで済むため、電解効率の向上や装置寿命の長期化が可能になるという。


(注1)電気2重層キャパシタは、電気2重層という物理現象を使って蓄電する物理電池。瞬時の充放電が可能で、出力変動の激しい再生可能エネルギー発電の変動調整用にはうってつけの蓄電システム。
(注2)フライホイール蓄電は、大型の円盤(フライホイール)をモーターで回し、電力を回転エネルギーとして貯蔵。キャパシタ同様、瞬時の充放電ができ、円盤を大きくすれば大容量の蓄電が可能。超電導技術を適用することで摩擦・抵抗がなくなり、高いエネルギー効率が得られる。


■山梨に続き北海道でもプロジェクトが始動

 風力発電のポテンシャルが高い北海道でも、P2Gプロジェクトが始まっている。

 道北の日本海に面した苫前町(とままえちょう)の町営風力発電所(夕陽ヶ丘ウィンドファーム)を舞台に、豊田通商NTTファシリティーズ川崎重工、フレイン・エナジー、テクノバ、室蘭工業大学の5社1大学が進めるプロジェクトは、2030年以降のFIT(固定価格買取制度)時代後を想定して、系統制約を受けた「FIT切れ風力」の活用を図るものだ。
 風力発電量予測システムで翌日の風況・発電量予測を行い、安定電力は系統に売電。不安定電力で水素を製造し、「グリーン水素」(注)として販売する。

 この実証事業では、①風力発電予測システムの予測精度と、売電する電力量と水素製造にまわす電力量の最適配分、②変動の大きな風力発電電力に対する水電解装置の性能、③水素輸送(有機ハイドライド法)のための装置・機器の性能、などを検証する。

(注)グリーン水素とは、一般的には再エネ由来水素を指す。ヨーロッパでは、天然ガス改質による水素製造時のCO2
排出量に比べ、60%以上低いものを「グリーン水素」、それ以外を「グレー水素」とする基準がある。

 東北の被災地では、震災で深刻なエネルギー問題に直面した経験から、非常用電源などで水素を有効活用する取り組みが進んでいる。

 東北大学は10月25日、「電力・水素複合エネルギー貯蔵システム」による実証の結果、大規模自然災害による長期停電を想定した72時間(3日間)の連続運転に成功したと発表した。

 この実証プロジェクトは、東北大学前川製作所などの協力を得て、仙台市の茂庭(もにわ)浄水場内に太陽光発電と水素貯蔵を組み合わせた複合システムを構築し、2017年8月から運用開始したものだ。


実証の目的は2つある。

 1つは、太陽光発電の出力変動を平準化すること。太陽光発電の余剰電力で水を電気分解し、発生した水素を貯蔵しておき、必要に応じて燃料電池で再発電する仕組みだ。電気2重層キャパシタも使い、大容量で長期貯蔵できる水素と、高効率で即応性に優れるキャパシタの組み合わせで、再エネ発電の出力変動に対応した効率的な運営を目指す。

 2つ目は、災害時のバックアップ電源だ。通常、浄水場などの重要施設には非常用自家発電設備が備えられているが、容量不足や、災害時には燃料の調達が困難などの理由から、信頼性は十分とは言えない。東日本大震災の際は、場所によっては4日間も停電した。このシステムでは、停電時でも発電できる太陽光発電と、水素貯蔵を組み合わせることにより、長期の停電にも耐えうる体制構築を目指す。


■「出力制御」を繰り返さないための切り札

 再生可能エネルギー発電の系統接続で問題となるのが出力の不安定性だ。大量の不安定電力が系統に流れ込むと、系統全体の周波数が乱れることや、最悪の場合停電を引き起こす可能性もある。

 先月、九州電力太陽光発電事業者に対し、一時的な稼働停止を求める「出力制御」を実施したことは記憶に新しい。

 風力発電についても、北海道電力東北電力管内では、需要量や需給調節力から算定された接続可能量の上限に近づいており、新たな導入余地が少なくなっている。
 だが、出力不安定な再エネ発電を安定電源に変えることができれば、系統接続の最大のバリアーが取り除かれ、再エネ導入を大幅に拡大することができる。

 そして、これを可能にする技術として期待されるのがP2Gだ。その実用化に向けて、実証プロジェクトの果たす役割は大きい。